技術情報 - 発色

ルビー(Al2O3:Cr)は本来無色のアルミナAl2O3のAl3+の一部がCr3+で置換されることで赤い色に発色しています。 酸化クロムCr2O3は緑色を示すことは良く知られていますが、アルミナの結晶中のAl3+の一部を置換したCr3+は赤色を示す要因になっています。 これは非常に不思議な現象の一つです。

原子は陽子と中性子による原子核とその周囲に存在する電子から構成されています。電子は原子核を中心に軌道を描くように存在しており、この電子が存在する軌道を電子軌道と呼びます。 原子核を中心にK、L、M核が存在し(主量子数に対応)、さらにそれぞれが方位量子数に応じてs、p、d等の副殻軌道を有します。(詳細は図表参照)

原子が結合して分子を作る場合、分子を形成する原子が近接してお互いに電子を共有 (イオン結合や共有結合)するので、それぞれの電子軌道が重なり複雑化します。 特に最外殻の軌道が影響を受けて分裂して新たな軌道を形成します。これを配位子場分裂と呼びます。 この原子同士の相互作用には、隣の原子だけではなく周囲の原子、特にサイズの大きな原子が影響します。

無機系の着色材に頻繁に利用される遷移金属はサイズの大きなM殻の軌道を有しており、そのd軌道は電子で完全に充填されていません。 遷移金属原子が酸素と結合すると上記した配位子場により複雑な電子軌道が形成され、M殻中の各軌道は対応したエネルギー準位を有しています。 エネルギー的に安定になるように電子は各種軌道に存在します(基底状態)。 電磁波を照射されると、電磁波のエネルギーを受けて基底状態の電子が基底状態から高いエネルギー準位の軌道にジャンプします(励起状態と呼びます)。 この励起状態は極めて不安定なので基底状態に戻ります。

ボーアモデルによる原子構造

s-, p-, d-軌道の形態